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vol.1 藤田賢一さん その2

Oi-pan interview パン屋さんの「なんでパン?」をうかがいます。

●藤田賢一(ふじたけんいち)さんのプロフィール
石川県金沢市生まれ。日本工学院専門学校・音響芸術科卒業後、
「TAMCO(タムコ)」でテレビ番組の制作に携わる。
主な番組に「ザ・ベストテン」「風雲!たけし城」など。
東京・富ケ谷「ルヴァン」のパンと出合い、パン職人を志す。
長野県「カナディアン・ファーム」で修業後、
1998年、金沢市玉鉾に「ラ・フィセル」オープン。
2005年、金沢市富樫に「パン屋 たね」を移転オープン。
同年に、フランスチーズ鑑評騎士の会日本支部「シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ」
叙任。


その2

パンの先に「人」がつながってる

―    そしてラ・フィセルから現在の店舗「パン屋 たね」へ。どういういきさつで改名、移転したんですか?

藤田・・・ラ・フィセルは「意味がわからないし、いいにくい」と言われてたんです。パンの名前なんですけどね。「玉鉾(※地名)のパン屋」とかって言われてたのもイヤでね(笑)。ぜひとも名前は変えたいと思ってた。読みやすく、条件としては、ひらがな表記の2文字。多くとも3文字。ちいさな子どもでも読めるし、読み間違いがないし。意味も、具体的と抽象が融合してるようなものにしたかった。

―    以前のフィセルの店舗は何年されたんですか?

藤田・・・7年です。実はフィセルを5年したら、移転しようと思ってて、ぼちぼち土地を探してたんです。それで何10カ所か見てきて、この土地を見た時のことなんですけど。店が立って見えたんです。ここにドカーンって。「あった、ここにあった!」と。

―    えっ、そこにすでに建物が立っていたんですか 8-O

藤田・・・立ってるように見えたんです。

―    土地だけのところに?

藤田・・・土地だけしかないのに、店が立ってるように見えて、そこに入っていくお客さんや、店内に並ぶパンやチーズも見えたんです。まさに「ここには、その店が必要なんだ!」と思ったね。

―    すごい~ :roll:

藤田・・・と同時に、お客さんたちや多くの人に支えられて、フィセルで収穫できた「種」、それをここに捲いたら、ビュー!っと伸びていくのが、イメージできたんです。で「すぐに移転」と思っていたのに、いろいろあって…結局売ってもらえるまで3年かかりました。

「パン屋 たね」の外観

―    そして7年後、念願の地に「たね」をオープンできたんですね。この店名には、またいろいろと意味があるんですよね。

藤田・・・「たね」という名前はね、深いなぁと思うんですよ。すごいと思ったのは、ものごとの「結末」と「始まり」を同時に意味しているところ。ループしている。これは深い。わかりやすい意味から説明すると、パンの発酵だねの「種」でもあるし、私たち家族の「飯のたね」でもある。それから、うちで作るパンはあまり一般的なパンとはいえないけど、「買った人の生活がいい方向に変わるきっかけ」になってほしいとも思っています。次に一歩踏み出せたり、ちょっと疲れてる時に復活できたりとか、お客さんにとってのなんらかの「種」にもなりえるかなと。それも、店名に込めた思いですね。

―    名前を変えた時、フィセルとは店のスタイルも変えたい、と思ってたんですか?

藤田・・・いや、場所が変わったから、変わったという感じ。自分で計算して変えてる部分はないんです。ただフィセルの時は、ほとんど自分一人やってたけど、今は妻もひんぱんに店に出られるし、パンづくりを一緒にやってくれる男の子もいるし、そういう中での自然の流れでの変化でしかない。

―    「たね」になってから、お客さんが変わったということありますか?

藤田・・・変わったところもあり、前のお店から引き続き、来てくれてる人もいます。前と変わったという点では、70才、80才のご年配のお客さんと長くお話をすることが多くなったねぇ。これもまた面白いですよ。

―    私はたねさんで、いつもおんなじパンしか買わないけど、みなさんどんなパンの買い方をされるんですか?来店のたびにいろんなパンを試す人もいますか?

藤田・・・あんまりいないです。その人その人決まっちゃってますね。だから、パンの位置を変えられない。変えると混乱しちゃうんです。「あらーないわー」って、帰っちゃう(笑)。そういうのが何回かあって「位置は変えちゃいけないんだ」と気づいた。

いつも同じところに並ぶパン

 

―    そんな風だとパンを作る時、それぞれのパンに付いたお客さんの顔が浮かんじゃいませんか?

藤田・・・そう、浮かぶんです。女性ばっかりですけど(笑)。「これがおいしくて」と言ってる女性の顔を思い浮かべると、おいしくできるんです、ほんとに。(笑)。

―    パンの中で自信作というようなものはありますか?「これぞ、たね」というような。

藤田・・・それは全部じゃないかな。どれかひとつは挙げられないな。どのパンも必要だからあるんです。そのパンを買いに来る人がいるから作っているわけで。作りたくて置いてるんじゃないんですよ。そのパンの先に「人」がつながっているんですよね。どれかを選ぶとなったら、お客さんも選んじゃうことになる。だから選べないなぁ、みなさん、それぞれにいいところがあるし(笑)。

―    私はたねさんのパンを食べると「贅沢感」を感じるんです。「出し惜しみしてない」というか。具にどっさり感があって。ケチケチしてないというか。

藤田・・・うちに来られるお客さんは、「おいしそう」というアンテナをいつも張ってて、「これだな」というものにビビッとくる、そういう方が多いんですよね。その期待を裏切らないものを用意しとかなきゃ、という意識は常に持ってます。だからいつも気が抜けない。怖いですよね。

―    怖いですか?

藤田・・・ええ、怖いです。

(つぎに続きます!)