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vol.1 藤田賢一さん その3

Oi-pan interview パン屋さんの「なんでパン?」をうかがいます。

●藤田賢一(ふじたけんいち)さんのプロフィール
石川県金沢市生まれ。日本工学院専門学校・音響芸術科卒業後、
「TAMCO(タムコ)」でテレビ番組の制作に携わる。
主な番組に「ザ・ベストテン」「風雲!たけし城」など。
東京・富ケ谷「ルヴァン」のパンと出合い、パン職人を志す。
長野県「カナディアン・ファーム」で修業後、
1998年、金沢市玉鉾に「ラ・フィセル」オープン。
2005年、金沢市富樫に「パン屋 たね」を移転オープン。
同年に、フランスチーズ鑑評騎士の会日本支部「シュヴァリエ・デュ・タスト・フロマージュ」
叙任。



その3

自分が自分であるために

―    突然ですが、焼くのに気を遣うパンってありますか?

藤田・・・なんだろう?マスコミ受けのいいパンというと、バケットなんでしょうけど、実はそんなに気を遣ってないです。確かに難しいは難しいけど、もう勝手に身体が動いてるので意識はしてないです。その時その時、生地の様子を見ながら、「さあ、どうするどうする」とリアルタイムで判断してるので。修業中は技術が自分のものになってないから、常に「難しい難しい」の連続でしたけれども。マスターしてからは「難しい」と感じたことはないですね。そんなに難しかったら、こんなにいろんな人がパンを作ってないと思う。

―    でも、パン屋さんパン屋さんでずいぶん味が違いますよね。「なんでだろう」と素人は思うわけですよ。

藤田・・・技術力といったって、所詮パン屋さんの技術力なんてたいしたことないですよ。石川県にいると特に感じます。県内の伝統工芸界には、すごい超人的技術の人たちがいるでしょ。九谷焼とか輪島塗の人間国宝の方々とか。その人だけが持っている技術で、その人だけしか作れない、という仕事をしてる人たちに対して、ちょっと失礼なんじゃないかなと思うことがよくある。だって僕たち「毎日、成功してるじゃん」という。しかも何百円だから。その程度なんですよ。作ってる方の意識はね。

―    えーそうかなぁ。春夏秋冬、晴れの日も雪の日も毎日毎日同じように、お客の期待を裏切らない高い質のパンを提供してるところに、私は文化とか芸術みたいなものを感じますけど。

藤田・・・そういう芸術的、文化的、歴史的なものを感じて、食べてもらってるっていうのは有り難いですよね。でも、こちら側から「そういうものが詰まってるんだよ」とは、声高に言えない立場なんですよ。「分をわきまわろ」とは、自分なりに思ってます。

―    それこそ、東京の「シニフィアン・シニフィエ」の志賀勝栄※さんとかは、「パンを文化に」という意識で作ってらっしゃるんだろうな、という気はしますね。

東京・三軒茶屋の「シニフィアン・シニフィエ」外観

※「ユーハイム・ディー・マイスター」など数々の東京の有名パン店で名を馳せたという日本のパン職人の第一人者。「シニフィアン・シニフィエ」は、粉・水・調味料にいたるまで素材を厳選し、製法もこだわりの限りを尽くしている。


藤田・・・ああいったパン作りの革新を目指すお店とは、うちはコンセプトが全く違うんです。店にお客さんが畑で採れたものや、おすそわけの果物持ってきてくれる、というようなところが、とてもいいわけで。それを翌日のパンに使ったりね。そういうふうに、お客さんとのコミュニケーションやりながら、自分の存在の意味を持たせている。だって、俺の人生の目的は「パン屋」じゃない。この世に生まれてきて「自分がいますよ、いていいんですよ」という居場所を確立するために「なにかやんなきゃ」と探して、行き当たったのがパンだったわけで。別にラーメンでもお寿司でもよかったわけですよ。家具でもガラス作品でも。

―    コミュニケーション…藤田さんのパンにはそんな思いが込められてるんですね。では、たねさんに初めて行く人に、教えたいパンはありますか?

藤田・・・「おすすめどれですか?」って、お客さんからもよく質問されるんですよ。でも、おすすめはお客さんによって違うんですよね。うちではそういう人には、「硬い・柔らかい」「甘い・甘くない」の2つのベクトルを軸に、好みをまずお聞きしてみるんです。それに合うようなパンをお伝えして、後はお客さんにおまかせします。「おすすめはどれ?」と取材なんかでも言われると、すごく困るんですよね。というのは、お客さんとコミュニケーションをとりながら、好みのパンを一緒に考えてるから。床屋さんだって、服屋さんだって同じことをしてると思いますよ。まず「あなたことを知りたいんです」というスタンスから始まるのが、いいお店と考えてる。パンにポップを付けるのも、わかりやすいかもしれないけど、効率的すぎて好みじゃない。私が、わざわざパン屋をやっている意味がないんです。急いでいるお客さんには申し訳ないけど、「ちょっと聞かせてください」というのがうちのやり方です。

―    たねと、ほかのパン屋さんとの違いって、どんなところだと考えていますか?

藤田・・・カンパーニュとかライ麦パンとか、毎日売れないかもしれないパンが、毎日あるところ。売れなくても毎日焼き続けている、というところですかね。

―    売れない日もあるのに、どうして、そんなパンたちを焼き続けているんですか?

藤田・・・自分が自分であるために。

―    それをわかってもらうために、そのパンを食べてもらうために、何か努力はしてますか? せっかく作ったパンを、食べてもらわないともったいないという気がするんですが。

藤田・・・あ、それは違います。うちからおすすめして、そのパンとの出合いを導くことはおかしいと思ってる。お客さんが見つけて「食べてみたいな」と思っていただかないと、何も生まれてこない気がするので。スライスして「どうぞ」とか、あまり営業的な働きかけはしないんです。やらないのは、お客さん自身が「私に合うのはどれだろう」と勘で探してもらうため。そのためにひとつの平台にパンを並べてるわけです。でも、そうすると、お客さんに訴えかけるパンを作らなきゃいけない。誰かのブログでうちのパンのことを「パンが話しかけてくる」という表現がしてあって、それを見た時「あ、伝わってるな、よかった」と思いましたね。

―   「お客さんにすすめない」というやり方は、お店をやっていく中で見つけたんですか、それとも開店当初から?

藤田・・・初めからです。すすめなくても「パンがそういうオーラを出しなさい」と(笑)。俺の仕事は、オーラの出るパンを作るまでだから。後はパンがどんだけお客さんに訴えかけるかですよ。

―    すごい忍耐強さ!

藤田・・・ええ、もう12年耐えてますから(笑)。でも「そうじゃないと本物じゃない」という気がします。でも、それが伝わった時の快感は「職人の幸せ」ですよね。

―    じゃあ、オーラを込める時に全力を注いでいる。

藤田・・・体力、気力、吸い取られてますよねぇ。きっとパンに(笑)。

―    私は「たね」のパンの、形とか、見た目にも惹きつけられるものを感じます。

藤田・・・それぞれのパンの形に意味があるんですよ。例えば、くるみカレンズは格子状に切ってありますよね。格子状に切ると、山がたくさんできて、焦げっぽくなる。だから硬くてガリガリした食感になるんですよ。くるみとカレンズ入りのライ麦パンを選ぶ人は、 きっとハード系が好きで、こういう見た目に惹きつけられるでしょう」というような勘を働かせて作ってる。生地は焦げる寸前が、一番味が濃いんです。水分が 飛んで小麦に熱がしっかり入るので、風味が強く、香ばしい。具が多いパンは、パンの生地の味の密度も濃くしていかないとバランスがとれない。で、すごくガリガリになるようにあんな形にしてみたんです。

 

くるみとカレンズ

 

逆に、具が少ないパンを同じようにガリガリと焦げっぽくしてもあまり意味がない。甘みの多いドライフルーツは、やさしい感じに仕上げています。小麦だけの生地でクープ(切れ目)も一本だけすっぱりといれてある。だから周りの生地が薄くよくのびて、ガリガリしないんです。そういうのは自分のさじ加減ですね。作り手によって全然解釈は違ってくる。「こういうパンを選ぶ人は、こういう見た目であってほしいだろうな」と思って作っています。

 

ドライフルーツ

―    なるほど、藤田さんのパンの解釈に、お客さんがひきつけられている?

 

藤田・・・よくわからないけど、そうなのかなぁ。ほかに形で言うと、クルミカレンズは細長いけど、ドライフルーツのパンはちょっとずんぐりしている。ずんぐりしているほうが、中身も多くなるんで、しっとりするし、あたりも柔らかくて食べやすい。ちょっとソフトなものに向くんです。細長いほうが熱が入りやすくて、ガリガリするんです。そんなふうに形には全部意味があるんですよね。

(つぎに続きます!)