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vol.3 今井喜久子さん その2

Oi-pan interview パン好きの「なんでパン?」をうかがいます。

●今井喜久子(いまいきくこ)さんのプロフィール
石川県七尾市出身。金沢市在住。3児の母。
「ホームメイド協会」などでパン・ケーキほかの基礎・理論を学ぶ。
1995年より自宅で「手作り工房グーテンアペティート」主宰。
翌年、出張型料理教室「いどばたキッチン」を主宰。
現在、金沢・七尾・自宅の3ケ所に教室を持つ。
各種イベントでのライブクッキングやガスレンジの講習会のほか、
2011年春からは、石川の元気な野菜と農家を応援する
「じわもんライフ」プロジェクトのスタッフとして活動中。




その2

パンはどうして膨らむの?

―    ところで、先生はパンの発酵に使うのはイースト、天然酵母どちらが好きですか?

今井・・・最初はイーストのほうが確実性が高いから好きでしたね。それに天然酵母のパンって固くない? 私はケーキでもパンでも「ふわーっとしたのがおいしい」という先入観があったんです。最近はいい小麦が入ってくるようになってきたから、天然酵母もいいなと思うようになりました。天然酵母パンの”噛むほどにおいしい小麦の味わい”を知ってからは、こちらのほうがいいかなと。

―    生徒さんはどちらのほうを好まれますか?

今井・・・の教室ではイーストがメインで、天然酵母は年に数回なんです。天然酵母だと前の日から準備しなきゃいけないし(笑)。うちに来る生徒さんはおしゃべりがメインだから(笑)、そんなに手間ひまかかるパン作りを、あまり求めてないのよ。

パン教室で焼き上がったパン

 

 

 

 

 

 

 

 

 


―    天然酵母パンを学ぶには、やっぱり“パンを極める”という心がまえが必要でしょうか?

今井・・・そうね、生態系を含めて、人が生きるシステムをちゃんと理解してないと。情緒的にじゃなくて、生物的に「生きる」ということをよ。

―    ちょっと難しいお話になってきましたね :roll:

今井・・・全然難しくないのよ。私は、イーストも天然酵母も、しょせん一緒なものだと思う。だって、同じ菌という仲間でしょ。

 

 

 

 

 

 




―    膨らませやすい菌を厳選したのがイーストというだけですよね。

今井・・・あれは小麦発祥の“強い酵母”をチョイスしたものなのよ。ブドウなどから発酵させる天然酵母の中には、膨らませる力が弱いものもあるから、毎日均一なパンを作らなきゃいけない時には大変でしょ。
でも、イーストも、天然酵母も、人間も、「発酵」や「消化」「呼吸」など、化学反応が起きて物質が変化する、いわゆる「代謝」をするという点では同じなのよ。食べて栄養にして消化して、ウンチやガスになるという。

―    「生命体が、物質を別の成分に変える」というプロセスが、ですよね。

今井・・・例えば、人間の場合でいうと、ご飯を食べるそれが消化されて、身体の栄養になり、最後にはオナラになって、おしっこが出る。味噌の場合だと、麹菌が大豆のたんぱく質を食べて行うのが「発酵」でしょ。そして二酸化炭素と水が出てしっとりする。似てるでしょ。
そういうサイクルを理解してしまうと「みんな一緒じゃない」ということになるの。
パンの発酵でみてみると、例えば天然酵母パンで酸っぱくなったものは、発酵が進み過ぎてる。その場合は酵母以外の乳酸菌が多すぎたり、酢酸菌が入ってきたりする場合よね。膨らまなかった場合には、二酸化炭素が足りない。「どうして二酸化炭素が足りないんだろう、酵母の栄養が足りなかったせいかな」とか考えてみればいいのよ。
こんなふうに「代謝」というポイントでみると、生物化学で説明ができるんです。人間も菌も“生きる”という行為は同じ。そのへんがわかってくると、面白いですよ。

―    なるほど、生物の変化のしくみを知れば、パン作りの失敗もなくなると。でも“おいしい”パンを作れるか、というのは、また別の話になりますよね。好みの問題というか。

今井・・・“おいしい”というのは、テクニックや経験の問題だと思うのよね。香りがいい、口どけがいい、風味がいいとか、“おいしいを感じさせる要素”というのはいろいろあるけど、そうした完成度の高さは素材や工程の順序などの“技術”が必要。職人さんの域ですよね。

―    ん 8-O 、感性やセンスの問題ってことですか?

今井・・・それとは違うなぁ。
ちょっと話はわき道にそれるけど、パンの発祥ってエジプトだって知ってる? 最初は小麦粉をただ練って焼いただけのパンだったと思う。それがある時、なぜか膨らんでいたんですって。で焼いてみたら、ふわふわのパンになったというのが、今のパンのルーツなんだそう。何かわからないけど雑菌がパンの栄養分を食べて、その雑菌のオナラで膨らんだんでしょうね。

―    菌のオナラがふわふわパンの原因なんですね。そのふわふわに昔の人も惹かれたんですね!

今井・・・だって、ふわふわって、口当たりがいいじゃない。今も天然酵母を使っても、少しでも口当たりのいいものをみんな目指してると思いますよ。「フレーバーも感じられて、やわらかいパン」というものを好む人が多いんじゃないかな。だから、生地が膨らみやすいように、ちゃんとたたいてグルテン膜を作るとか、というテクニックが必要になってくる。

―    なるほど、そういう部分がいわゆる”テクニック”なんですね。グルテンの膜の作り方は重要なポイントとよく聞きます。

今井・・・そうそう、パン生地は子どもと一緒で「おだてりゃ木に登る」んです(笑)。なだめすかして、やさしく。たたいたりもんだり、切ったり貼ったりと、痛いことをした後は、休ませてあげる。1次発酵、2次発酵、ベンチタイムとかはその過程です。そしたら、ご機嫌よくなって、リラックスして、オナラをしてくれるんです。そのオナラがパンを膨らませてくれるんです。

―    はぁ、パンって赤ちゃんみたいですね~

 

 

 

 

 

 

 


今井・・・
ピンポン! 子育てと一緒だって。原理原則を知ればカンタン。でもテクニックを使って奥深くすることもできる。

―    テクニックという面では、最近「長時間発酵」という言葉をよく聞きますが。

今井・・・時間発酵では、イーストを少なくして発酵させてるの。イースト臭を少なくして、長く発酵させることで風味を出しているんでしょうね。

―    ところで、先生が教室を始めた頃は、こんなにみんなが家庭でパン作りをするなんて、考えられましたか?

今井・・・ちょうど豊かな時代でしたから。みんなが一斉に作りはじめた頃でしたね。高度成長時代を経て、カルチャー教室とかが流行り出した。「公園デビュー」なんて言葉が出てきたのも、この時代ですね。主婦が働いてなかった上に、自分自身にも十分投資できた時代ね。

―    その豊かな時代に、パン作りが入り込んできた。

今井・・・パンが生活の中にどんどん入ってきた時期。パンはお菓子と違って、ご飯と同じように食卓に並べることができるから。

―    パン作りの面白さって、どんなところにあると思います。

今井・・・パンは作る人の気分をすっごく反映するんですよ。焦って作ったパンは焦って作ったパン。イライラしてる時にはイライラパン。

―    へぇーイライラパンってどんなパン?

今井・・・パンって原則的に上に膨らむのね。切った時に縦長の気泡がよくできてるでしょ。でも、焦って作ると、横に膨らんで丸い気泡が出来てるの。

―    不思議ですねぇ。

今井・・・でも、私、教室では「テキトーでいいよ」ってよく言うの。ぶっちゃけていうと、レシピもいらない。レシピっていうのは”おいしい味”を復元しなきゃいけない時に必要なのね。お店なんかでも、今日と昨日の味が違ってたら大変なことになるでしょ。でも家庭だったら、同じ献立でも前と味が違っててもべつにOKじゃない。パンだったら、なんで膨らむのか、がわかっていればいいのよ。家庭で味わう分には、十分なパンができるから。レシピがあると、それを覚えなきゃできないじゃない。そんなのってつまらないと思うの。

 

(つぎに続きます!)