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vol.3 今井喜久子さん その3

Oi-pan interview パン好きの「なんでパン?」をうかがいます。

今井喜久子(いまいきくこ)さんのプロフィール
石川県七尾市出身。金沢市在住。3児の母。
「ホームメイド協会」などでパン・ケーキほかの基礎・理論を学ぶ。
1995年より自宅で「手作り工房グーテンアペティート」主宰。
翌年、出張型料理教室「いどばたキッチン」を主宰。
現在、金沢・七尾・自宅の3ケ所に教室を持つ。
各種イベントでのライブクッキングやガスレンジの講習会のほか、
2011年春からは、石川の元気な野菜と農家を応援する
「じわもんライフ」プロジェクトのスタッフとして活動中。

 


その3

似てるけど違うケーキとパン

―    ちょっと横道にそれますが、先生は有名パティシェの辻口さんともお知り合いなんですよね。

今井・・・そうなの、同じ七尾出身! しかも同じ店のケーキで感動したという共通体験があるのよ。その店のケーキを食べて「ケーキを作ってみたい!」と思ったというところまで一緒。「ボンボン」という名前のお店でしたね。辻口さんは、のちにケーキ作りで世界に名を轟かすところまでいかれたから、そのケーキ屋さんの影響力たるや、すごいと思わない? 
そして、思いおこせば、私のケーキのルーツもこのお店なのよね。
これは本人としゃべって、確認したことだから確かな話よ。
二人とも「世の中にこんなおいしいケーキがあるんだ」と目覚めたのが、おんなじ店のケーキだったわけ。

―    それは何歳の頃の体験だったんですか?

今井・・・辻口さんは小学生の低学年の頃じゃないかな。私は中学生の頃かな。

―    そのケーキ屋さんは今でもあるんですか?

今井・・・残念ながら、なくなってしまったの…でも今も、その店のケーキをしっかり覚えてますよ。
スポンジの上にムース、その上にフルーツがきれいに飾られていて、その上にゼラチンがかかってて…
今だと少しクラシックなケーキ。それからカップの中にスポンジ、プリンがあるプリンアラモードとか。
どれも、ふわふわ~っとしたスポンジが、思い出として残ってるわね。

―    二人の未来を決めたのは、ふわふわケーキだったのか・・・
やっぱり、ふわふわケーキの威力ってすごい 8-O

今井・・・ケーキはパンと違って、膨らますのに生き物を使わないんですよね。卵を泡立てるか、バターを泡立てるかして、その気泡を使う。それかBP(ベーキングパウダー:膨張剤)を使って膨らますかですよね。卵を使うのがスポンジケーキ、バターを使うのがバターケーキ、BPを使うのがホットケーキやクッキーです。

―    小麦粉、卵、砂糖、バターなど、ほぼ同じ材料を使うのに、膨らますテクニックが変わるだけで、さまざまな“スイーツ”が生み出されるわけですね。

今井・・・考えてみると、不思議な世界だよね。

―    そうやって生み出されるスイーツは、きれいでロマンチック、芸術性を感じさせる世界。でもパンは、こねたり、酵母のような菌を使ったりして、もっと泥臭い世界のような気がします。日本でいうと”おにぎり”に近いような…

今井・・・やっぱり生活感があるよね。

―    作る人の性格とか、もっと言うと、あたりに漂う菌とか、その人の手の菌とかも入っていたりするような…

今井・・・そうよね。教室でもパンが膨らまなくて、固いブサイクなパンができたりすることがあるんだけど、パンだと「これはこれで素朴でいいじゃん。お母さんが作った味だし」と思える。
これがケーキだと「なんや、こんなもんいらんわ」となるんですよね。味はよくても、見た目が悪いとケーキとはいえなくなってしまう。

―    ケーキだと完成度が求められる。

今井・・・
懐石料理とかと、似たところがあるかもしれんね。

―    パンはそうすると、家庭料理ですかね。


 

これは教室に参加する生徒さんをメロメロにしてしまう、今井先生の絶品ケーキ。小麦粉を全く使わない、100パーセントかぼちゃのケーキです。
こんなふうな、パンとケーキの中間にあるホームメイドの味もあります。





今井・・・
そうね、パンは素朴さがあるわね。だから家庭の食卓にすごく入り込んでいるんでしょうね。アメリカだと、パン作りの計量なんて大雑把ですよ~。イースト大さじ1杯、小麦粉も砂糖もカップ何杯って。それでもおいしいパンが作れるんだから。

―    アメリカ人には、そんな作り方、合ってるかも。
それにしても、パンってどこで発達したんですかね。なんも知らなくて、すみません。

今井・・・エジプトで生まれて、ヨーロッパで発達したのよ。面白いのは、同じパンでも、さまざまな形があるところ。形にも意味があるのよ。
例えば、クロワッサン。三日月と菱形の2種類があるけど、三日月のものはマーガリンを使い、菱形はバターを使ったものなの。三日月型はオーストリアがトルコ軍に勝った時、その国旗の三日月にちなんで作り始めたものなんですって。
それから、ブリオッシュというパンがあるでしょ。あれはウイーンから嫁いできたマリー・アントワネットがフランスに持ってきたパンらしいです。形もいろいろとあって、よく見る”帽子型”のものは僧侶を表しているとか。

帽子型のブリオッシュ (これは「アルムの森」さんのパン)

 

 

 

 

 

 





―    マリー・アントワネットというと、あのセリフで有名ですよね。

今井・・・世に言う「パンが食べられないのならお菓子を食べればよいのに」だよね。実は彼女がいう“パン”は、このブリオッシュなんです。ブリオッシュは普通のパンより、バターをたっぷり使った贅沢なものなの。当時の一般民衆は、食べたことがなかったかもしれないぐらいの。
もしかしたら、ブリオッシュと言ったがために、彼女はギロチンの処刑台に送られてしまったかもしれないわね。

―    うーん、歴史をたどると、パンにも怖いお話がありますね。

今井・・・フランスパンも、地方によって、表面に入れるクープ(切り込み)の数が違うとか、いろいろなウンチク話もあるのよ。味や製法だけじゃなくて、パンのルーツを極めるのも結構面白いわよ。

―    パン検定もあるらしいし、挑戦してみますかね。

今井・・・それは、おまかせするわ(笑)。日本でも、木村屋のあんぱんの有名なお話があるわよね。スタンダードなあんぱんには“けしの実”がのってるけど“桜の塩漬け”がのったパンがあるじゃない? あれは宮中からあんぱんの注文があった時「庶民と同じパンでは畏れ多い」ということで作られたらしいわよ。

―    さすが先生、検定受けてないのに詳しいですね(笑)。

今井・・・昔、習ったパンの恩師が、こんな雑学に詳しい方だったの。だから、授業はとっても楽しかったわよ~。そうそう、こんな話もあるわよ。食パンはもともとイギリスで山型パンが製造されてたのが、アメリカでも作られるようになり、鉄道でも焼かれるようになっていったの。その時、かさばらないように型にフタをして焼いたのが、今の「角型食パン」のはじまりらしいわ。

―    ふーん。いろいろあるんだ! そんなパン雑学も先生の教室の魅力なんですね、きっと。

 

(つぎに続きます!)