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vol.4 塩井増秧さん(「アンティーク フェルメール」店主) その1

Oi-pan interview パン好きの「なんでパン?」をうかがいます。

●塩井増秧 (しおいますお) さんのプロフィール
大分県出身。金沢市在住。
1989年に渡欧し、日本語教師・翻訳をしながら、アイルランドに3年半在住。
1998年、金沢市新竪町に「アンティーク フェルメール」開業。
毎年春秋には、アンティークの買い付けのため、
イギリスに約3週間ずつ滞在している。
2005年、金沢市のリトルプレス「そらあるき」を仲間とともに創刊。
編集長を務める。

 

 

セレクト雑貨やアンティーク着物、オーダー家具や靴店など、
金沢随一の個性際立つ店が居並ぶ新竪町通り。
通りの取材中、
一角でアンティーク店を営む塩井さんが、
「アイルランドでよくパンを焼いてたよ」とつぶやいたことから、
このインタビューが実現しました。
話題は、アイルランドや英国のパン話から、果ては日本人の輸入文化論まで、
飛ぶ飛ぶ!
ちょっと怖いけど、ちょっと温かい。
切れ味鋭い塩井ワールドの一端をのぞいてみませんか?

 

 

その1

アイルランドで焼いてたパン

―    塩井さんは、渡欧する際になぜ、アイルランドを選んだの?

塩井・・・日本人がほとんどいなかったから。それに、アイルランドの先住民族、ケルトって好きなんですよ。詩、音楽…芸術に長けた民族ですよ。世界中を席捲してる文学者は、ケルト人ばっかでしょ。

―    でも、アイルランドって、料理はおいしいんですかね。

塩井・・・はっきり言って、まずい。というか、みんなあんまり食うことに興味なさそう(笑)。
言葉に対する感受性は鋭いけどね。会話からすでに文学になってるし。

―    お酒は好きみたいだけどね :mrgreen:
アイルランドも、もちろんパンが主食ですよね。普段どんなパン食べてるんですか?

塩井・・・僕がいた90年代には、ダブリンでフレンチなパン食ってるやつなんていなかったね。
バゲットなんて食おうもんなら、「んな、また気取って…」って感じ。

―    へぇ、そうなんだ!

塩井・・・バゲット売ってるパン屋なんか、めったにないし。みんな食べてるのは黒パンですよ。白いパンなんて…という。

―    白いパン食べてると「軟派なやつ」になっちゃう。

塩井・・・「ふーん、パリにでも行っちゃえば~」という目で見られてた。

―    じゃ、みんなライ麦パン?

塩井・・・とか、カンパーニュのもっと固いやつとか。石みたいな。頭ぶつけても平気なようなパン、が多かったね。

―    へぇー 8-O

塩井・・・でも、うまいんすよ、それが。ハチミツもうまいし、バターもうまいし。

―    黒いパンって、酸味が強いからね。

塩井・・・そうそう、酸味が強くて、身体にもいいんすよ。

―    アイルランドに住んでいた頃、よくパンを焼いていたそうですが、誰かに習ったんですか?

塩井・・・ガールフレンドの知り合いでね、「お母さんが英国のさる高貴な人の料理人をやっていた」という人の息子に習った。

―    すっごい肩書き(笑) それは、いったいどんなパン?

塩井・・・いわゆるブラウン・ブレッドというやつ。強力粉、小麦ふすま、バターミルクなどを使って焼いてたね。

―    バターミルクって、バターとミルクじゃなくて?

塩井・・・そう、バターミルク※。日本じゃ買えないと思うけど。

※バターミルクはバターを作る際にできる副産物で、軽い酸味があり、ほんの少しどろりとした発酵乳飲料。日本では「特定乳製品」に指定されていないため、販売されていない。

―    膨らます方法は、イーストを使って?

塩井・・・いや、イーストじゃなく、ソーダ(重層)を使ってた。そんなに膨らませるわけじゃないから、あまり入れないけど。

―    どんな味でしたか?

塩井・・・いわゆるドイツパンに近い味。見た目はフランスのカンパーニュみたいな大きさで、もっと黒くて固い。それで、すごいハードブレッド。頑丈なナイフじゃないと切れないような。それを少しずつ切って食べてた。焼き上がりが、またうまいんだよね!
焼き上がったばかりのをオーブンから出して、タオルで蒸してから、切る。
その湯気が上がってるところに、バターを塗る。
さーっと溶けたバターの上に、ハチミツたらして食うと最高においしかったね! 
むこうは、またハチミツもうまいし。

―    ヨーロッパのハチミツっておいしいんだ。

塩井・・・うまいよ~

―    こっちのより?

塩井・・・全然、話になんない。日本のもまずいとは言わないけど、味ないっすよ。というか薄い。
むこうのはもっと濃厚だから。

―    日本に帰ってきてからは、パン、もう焼いてないんですよね。

塩井・・・そうだね。でも、またいつか焼いてみたいと思う。僕、パン焼くの好きだし。

―    自分でうまく焼けるもの?

塩井・・・日常的にいつもやってると、うまくなるねぇ。僕、自慢じゃないけど、オートミール作るのもうまいよ。毎日作って食べてるし。

―    そういうの毎日食べてるってことは、塩井さんお米の人じゃないんだね。

塩井・・・僕、お米あんまり好きじゃないし。興味ない。一生食えなくなってもいいかも。

―    じゃ、パンのほうが好き?

塩井・・・おいしいパンと、あと、ラーメン、パスタでもなんでもいいから麺類と、おいしい紅茶と、おいしいチーズがあったら、一生暮らせますよ。あと、甘いものがあればいい。

―    へぇー、小麦の人だ!

塩井・・・別に小さい頃から”品のいい生活”してたわけでもなんでもないんだけどね。ごく普通にお米で育ったのにね。

―    いつから、そうなったんですか?

塩井・・・やっぱり、アイルランドに行ってからですね。だから、おいしい米って、よくわかんないんです。興味ないから。

―    小麦はおいしいと思うの?

塩井・・・そうですね。でも、シンプルなものがおいしい。パンもね。自分で焼いてた頃は、フルーツとかナッツとかいろいろ入れてた時期もあったけど、結局は何も入れないパンに落ち着いてった。
「シンプルでおいしいもの」って一番作るのが難しいですよね。それって、料理全般に言えることだとも思うけど。たくさん余分なものを使うと楽なんだよね。ごまかせるから。
パンも、シンプルでおいしいに、たどり着くまでが難しいと思う。

―    自分で何度も焼いてみて、そう感じたんですね。やっぱ説得力あります。

 

(つぎに続きます!)