― 外麦(輸入小麦)では、どこの粉が使いやすいんですか?
小畑・・・カナダとか、オーストラリア。
― フランスは?
小畑・・・フランスの粉は難しいよ。国産小麦よりたんぱく質少ないしね。でも、うまく作ればすごく風味あるものに仕上がる。フランスの粉には、灰分(かいぶん)が多めで少し黒みがかってるのがよくある。
この灰分※が風味のもとになるんやね。
石川県ではあんまり使ってるとこないんじゃない? 難しい上に、むちゃくちゃ高いし。
※灰分(かいぶん) ミネラルのこと。小麦の外側に多く含まれる。生成してない粉は風味は多い。 小麦粉は、日本ではグルテン量によって強力粉・準強力粉・中力粉・薄力粉に分類されるが、フランスでは、灰分量で分類されている。 |
― そうですね。あんまり聞かないですね。しかも値段も高いんだ。
小畑・・・一般的には、日清製粉の白くてきれいなカメリヤとか、膨らみやすいスーパーキングとかが使いやすい。実際、パン屋でもよく使われてると思うよ。
― ふーん。粉の世界は幅広いなぁ
アルムさんでは国産小麦を10種類ほど使ってるんですよね。どんな銘柄を使ってるんですか?
小畑・・・ハルユタカ、ユキチカラ、春よ恋、キタノカオリとか、いろいろ。
― それをパンによって使い分けてるんですか?
小畑・・・ハルユタカやキタノカオリは食パンに、ウーヴリエ、タイプERはフランスパンやハード系に。それから、金沢大地さんの食パンは、石川県産の有機栽培強力粉ハルユタカ100%で焼いてる。
― 金沢大地さんの有機小麦粉で作る食パンは、塩も石川県産でしたよね。
小畑・・・能登の塩を使ってるよ。どうせこだわるなら、全部石川県産にしないと、やるかいがないしね。
― 確か、このパンの粉は、東北の有機JAS認定の製粉工場で挽いたものだとか。
小畑・・・一般の製粉工場で挽くと、有機栽培じゃない小麦と混ざってしまうから、わざわざ東北まで輸送して挽いてもらってる。だから価格もその分高くなる。
― なんて贅沢な! 安全・安心、しかも地産地消にこだわったオーガニック食パンですね。
小畑・・・こだわるなら、徹底しないと面白くないしね。
― そうやって、国産小麦と向き合ってきて、一番大変だったのはどんなところですか?
小畑・・・一番難しいのは、温度管理やね。粉の温度、室温、水温すべての。
― やっぱり温度管理なんですね。それを機械で調節してるんですか?
小畑・・・機械? いや、人間がやっとるんやって!
― どうやって?
小畑・・・寒かったら湯を使ったり、生地の温度が低かったら、ホイロ(発酵機)に入れたり、発酵時間を長めにしたりして調節する。寒い時はまだいいけど、暑い時の温度管理がまた大変。発酵が進み過ぎないように、氷を使ったりもするよ。
そうやって、毎日、同じ温度の生地になるよう管理しないと、なかなか一定した品質のパンは作れんしね。
― ほんとに生きもの扱いですね。
小畑・・・それを意識して作らんと、必ずまずいパンになるから。
― 大変そう…そんななかにも面白味ってあるんですか?
小畑・・・もちろん! 楽しいよ、好きやもん!パン作るの。
好きじゃなかったら、何十年もこんなきついパン屋なんかできん。俺がパン作りやるようになってから、もう30年やよ。
― 30年か~。どこがそんなに楽しいんですかね、パン作り。生地が変化していく様子とか?
小畑・・・そういうのも全部含めて楽しい。でも、食べるのはあんまり好きじゃない(笑)。だから、ほかのパン屋には、あんまり行かんわ。
― そんなに作るの好きなのにね(笑)。
小畑・・・作るのは、こねて、焼き上がるまでの、すべての工程が楽しいね。
― 毎日、温度管理とかにふりまわわれてるのに…。あ、でも、もう完璧にマスターしてるから、大丈夫なんですよね。
小畑・・・いや~今でも苦労してる(笑)。
完璧になんて、できんできん。30年やってても難しい。
だから、半年とか1年の修業で、パン屋として独立する人、すごいなと思う。
よっぽど勉強して、努力しとるんやろね。
― 人それぞれ、目指す到達点が違いますからね。小畑さんの目標とするところは、きっとレベルが高いんだと思いますよ。