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vol.5 岡崎俊裕さん その3

Oi-pan interview パン屋さんの「なんでパン?」をうかかがいます。

●岡崎俊裕(おかざきとしひろ)さんのプロフィール
1970
年、奈良県生まれ。金沢大学教育学部・金沢大学大学院哲学科卒業。
地元、奈良県で小学校教員を6年間勤めた後、退職。
パン職人を志し、金沢を起点に修業を開始する。
石川県河北郡「ボングー」、長野県「ル・コパン」、
「金沢全日空ホテル」(現ANAクラウンプラザホテル金沢)の製菓・パン部門、
恵比寿「ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブション」など、
約10年の経験を積み、2010年に独立。

 

その3

技術ある者が打ち勝つ世界

―    岡崎さんがロブションで得たもの、学んだものって、どんなことでしたか?

岡崎・・・まず生地づくり」。今まで自分が作っていた生地が、”オールドスタイル”だったことに気づかされましたね。今のパン作りでは、水をたっぷり入れたり、冷蔵発酵したりするんだなと。

―    水をたっぷり入れるのは、新しいスタイルなんですか?

岡崎・・・最近は多くなっていると思います。リーン※なパンにはだいたい80%ぐらいは入れてます。
多いところだと、90%近くは入れるんじゃないですか?

リーン
簡素なという意味。砂糖、油、卵、乳製品などをほとんど入れないシンプルなパンのこと。
バケット、カンパーニュ、ドイツパンなどのハード系パンが多い。


―    それはやっぱり、みずみずしさが保たれるからですか?

岡崎・・・そうですね。成形さえ、うまくできれば、外側がパリッとして、中がふんわりしっとりとしたパンができるからです。今、パン業界をリードしている「シニフィアン・シニフィエ」(以下S・S)の志賀さん※もすごく水を入れてるみたいですね。あの方はパンを大きく焼いて、そういう方法をとってる。小さく焼くと外がパリッと焼けても、中の水分は抜けてしまいやすいんです。だから「S・S」では、大きいパンを焼いて、カット売りにしてるでしょ。クラム(パンの中身)のもっちり感しっとり感を出したいからでしょうね。

志賀勝栄さん
東京・三軒茶屋の「シニフィアン・シニフィエ」店主。
「ユーハイム」「フォートナム&メイスン」などの名店で、数々のパンの伝説を作り上げてきた人物。
パンを文化のひとつとして高めようとしている姿は、パンの革命家のようですらある。


―    なるほど :-o

岡崎・・・だから本当は僕も、水分いっぱい入れて大きく焼いて、カット売りしたいですけどね。今は奥さんと2人でやってるから、カットする暇もなくて…。
でも、そういうのが根付いていったら、面白いなぁと思います。

―    カット売りやグラム売りは、東京のほうでは結構やってる店ありますもんね。
最近、単身世帯や家族の人数が少なくなってるから、これからいいかもしれないですね。

岡崎・・・そうなんです。夕方にバケットをカットして売ると、スパスパ売れるんです。

―    その日のうちに食べられる量が買えるから、かえってありがたいかも。

岡崎・・・ただ、あまり早くやり過ぎると、持ち帰って食べようとした時にパサついてたりして、あまりいい印象でなくなったりする場合もある。そのへんのタイミングが難しいんですよね。

―    確かにそれはありますね。
ところで、最近の傾向として、「低温発酵」もあげられてましたが、これは作業効率をよくするためですか?

岡崎・・・それもあると思いますが、一番の目的は「粉のうまみを引き出すこと」
うまみを出すには、熟成期間が必要なんです。
でも、温度が高いまま発酵が進むと、酸化も進んで、どうしても酸っぱくなってしまう。
長く熟成させるには、低温でじっくり発酵させることが必要なんです。

―    「水をたっぷり入れる」「低温発酵」が、リーンなパンの今の流れなんですね 8-O
こうした生地づくり以外で、学んだことってありますか?

岡崎・・・精神的な面では、物事にあまり動じなくなったこと。それと、ロブションでは何でも自分で考えさせられるので、フレキシブルに対応できるようになったことですね。

―    自分で考えさせられる? 手取り足取りじゃないんですね。

岡崎・・・もちろん!ほっとかされますね。それで結果を見て、厳しく評価されるんです。どこかのプロセスで間違えがあったら、自分で解決することが求められる。もちろん、聞くこともありますけど、基本的にはそうですね。

―    じゃ、ここで本当の意味での「ものづくり」にガッと正面から向き合ったと。

岡崎・・・特に最後の1年は、向き合いましたね。
どこかで転換期があって「学ぼう」という姿勢がすごく強くなりました。
不思議なことに、そうやって自分の意識が変わってからは、重要な仕事もどんどん回ってくるようになりました。責任が重くなればなるほど、やりがいもありましたね。「自分が引っ張っていっている」という実感を持てましたし。

―    じゃあ、シェフや同僚との関係もよくなっていったんですね。

岡崎・・・そうですね。また、最後のほうに入ってきたスタッフが、関西出身者が多くて(笑)。
彼らにも随分助けられました。みんなで考えながらやれる環境になってましたね。面白い職場でした。

―    みなさん意識高い人ばかりだし、真剣に学ぼうと自分の覚悟が決まると、すごくいい現場になっていったんですね。

岡崎・・・個性的な人も多かったですしね。そんな人たちとチームで仕事をしてみて気づかされたんですが、
あの世界って、偏差値では測れない「才能」の世界なんです。
学歴もなにも関係ない。すべて平等。最後には「技術のある人」が打ち勝っていくという。

―    完全なる実力世界! まさに”厳しくも面白かったロブション”だったわけですね。
そんなロブションの「パンの魅力」って、どんなところだと思われますか?

岡崎・・・まず、オールラウンドにおいしいところ。そしてデザイン性。その点ではすごく勉強になりましたね。新しいパンを作り上げていくプロセスも面白かった。シェフと一緒に試作しながら、作り上げていくんです。味やデザインがいまひとつの時、どうやって改良していくのか、シェフの方法論を目の当たりにできました。「これ、どうするのかな」「あ、シェフはそうやっていくのか」と。
創造の過程に寄り添いながら、自分の引き出しも多くなっていきました。シェフは「もっといい商品を」と、すごく貪欲でしたね。味がよくても、デザインがよくなかったら、どんどん変えていく。
その時の学びが今、自分の店のパン作りにすごく役に立ってます。

―    ひとつの製品づくりに、どれくらいの期間をかけていたんですか?

岡崎・・・長いと2ケ月ぐらいのスパンで。料理、ケーキのスタッフの知恵を借りながら、よりいいものに仕上げていくんです。

―    製品づくりにおいて、いわゆる”ロブションっぽさ”ってあるんですか? シェフのカラーとか?

岡崎・・・シェフが変わると傾向も変わるんですが、根本に流れているのは、やっぱり「華やかでデコラティヴ」ですかね。特にヴィエノワズリー※はそうですね。その点、は僕の店でも受け継いでいきたいと思ってます。

ヴィエノワズリー
オーストリアから伝わったクロワッサンやブリオッシュなどのリッチなパン。
ヴィエノワズリーはフランス語で「ウイーンの」を表す。

「YAMANEKO」のヴィエノワズリー

 

惣菜パンもやはりデコラティヴ

 

 

(つぎに続きます!)